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筋電メディカル徒然日記

2021年05月28日

徒然日記 20
筋電メディカルEMS
バージョンアップ!

筋電メディカルEMSは、森谷教授が名付け親です。「EMS(骨格筋電気刺激)装置は、そもそも高齢者を筆頭に運動ができない人の筋肉を増やそうという狙いがありました」と、教授の本には書かれています。また「そのEMSは、新しい技術も得て、さらに用途が日々の健康管理に広がろうとしています」と続きます。
 
私が、4カ月にも亘って義父母の終末期や叔母の介護、脳梗塞で身体の自由が失われてしまっているかも知れない友人のこと、車椅子のサッカー少年の話やらを書いてきたのは、教授が研究しているこれまでの「筋電メディカルEMS」が、現在商品化されているものより大きくバージョンアップされて世に出るのが間近に迫ってきたからなのです。
最初は、アスリートやスポーツ・ジム好きの人のためのものでしたが、バージョンアップしたために、教授の目的である「運動弱者の筋肉を増やすこと、そしてEMSのメカニズムが、自力で歩けない人の運動、筋肉を動かすこと」に役立つかを知っていただきたいのです。
 
叔母が車椅子生活のまま息を引き取った後、もう電気も点かない家の片付けをしていた時です。叔母のベッドが置かれた部屋から、玄関や洗面所まで、壁紙が汚れているのを見つけました。ちょうど床から叔母の手をつく高さにその黒ずみがあったのです。独り暮らしの叔母は、トイレに行く時も集金人の対応をするために玄関に行く時も、きっとやっとのことだったでしょう!
 
私が文藝の編集者だった頃、渡辺淳一さんに「男の機能を失った歳の人が若い女性に恋をしたらどうなるでしょうね?」と無駄口を叩いたことがありました。編集者は、作家に原稿を書いてもらうために興味のありそうなことを次から次へと喋りまくります。“下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる”の戦法です。ところが、これが当たるのです。すぐに当たる時もあれば何十年後に当たる場合もあります。すぐに当たってくれりゃ自分が担当している時に刊行できるのですが、何十年となると、こちらも担当者という名前が無理になっている頃です。先ほどの“数撃ちゃ”の年寄りの男性の恋の話の答えは、私が退職後でした。
 
渡辺さんが亡くなるちょっと前に、がんで入院していた渡辺さんを囲む会をやろうという話が持ち上がりました。最初は、何人かで、という想定でしたが、出席希望者が500人以上になってしまったのです。もう今や古い建物から新ビルに変わりましたが、以前は芥川賞・直木賞の授賞式でも使っていた東京會舘の大きな会場でした。満員御礼!最後は、少し顔が浮腫んだ渡辺さんの挨拶です。壇上でしばらく話をしていた渡辺さんは、突然舞台の前のほうに立っていた私に向かって笑みを浮かべ「昔、こんな話をした編集者がいました。しかし、作家といえども自分がその歳になってみないと書けないことがあります」
私は、マズい!と思いました。口から出まかせ、というわけではありませんが、あの渡辺さんがずっと考えていたのです。その歳になってみないと、わからないことがあるのですね!歳だけじゃありません、境遇もそうでしょう!
 
また脱線してしまいましたが、もっと早く筋電メディカルEMSを知っていたら、叔母をもっと楽にリハビリさせてやりたかったと思うのです。叔母は、お乳の出なかった母の代わりに、私にお乳を与えてくれた第二の母でした!

高松市菊池寛記念館名誉館長
文藝春秋社友
菊池 夏樹