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筋電メディカル徒然日記

2022年07月15日

徒然日記 77
脚と腕の筋肉で

「はい、きてますよ!満点ですねぇ」
「満点ですか、初めて満点なんかとったから母の墓前に持っていって報告しなきゃ!」
主治医の女医さんも、そばにいる看護師さんたちもクスクスと笑っている。毎月、逆流性食道炎や高血圧症の薬をもらいに行く家のそばにあるクリニックでのやりとりである。
 
循環器系の医院だからかどうか、3ヵ月に1回は血液検査をおこない、次の月に検査機関から送られてくる用紙を主治医が渡しながら、基準値と見比べて説明してくれる。
実は、高血圧症もクリニックに毎月行くたびに上は120前後、下は70前後と優等生の数値で、今回も「上126、下70、いいですねぇ!花丸ですねぇ!」と言われた。
 
以前も書いたことがあるかも知れないが、私の高血圧症がわかったのは、父が入院していた病院に見舞いに行った時のことだった。受付の前の廊下の長椅子に座って、所在なく父の診療時間の終わりを待っていた時に、血圧計が置いてあるのを見つけた。壁には『どなたでもご自由にお使いください!』と書かれた紙が貼ってある。それまでは、会社の身体検査などで測ったことはあるが、数値も血圧計自体にも興味を持たなかった。
 
所在無げに座っているよりは面白そうだと思い、測ることにした。数字が出て、ジーっとした音と共に細長い紙が出てきた。数字が書いてあった。140強、下は忘れた。何が基準値かわからない私は、その紙を受付に見せた。彼女は、時計を見た。「院長先生がまだいらっしゃると思いますから座って待っていてください」彼女は、紙をもぎ取るようにして奥へと入っていった。
ドアが開いて院長先生の顔が見える。こっちにおいでと手招きしている。「う~ん、ちょっと下が高いかな、心配することの無い程度だよ、1週間分薬を出しておくけど、大変だね、お父さんのために毎日見舞いに来て、病院は心強いけど、なかなか家族がこうやって来てくれる人いないもの」
 
母は、前にこの病院で逝っている。子供は、私ひとりだし、つい先だって家人が母を3年、父を3年看病して見送った。6年間の彼女の献身を見ていると、私も何もしないわけにもいかない。父との相性は、悪かった!嫌いなのか、好きなのか、どうでもいいのか、わからないが、内弁慶で外面の良い父の性分は、吐き気がするほど嫌だった。
しかし、子ひとりだから放っておけないだけだ。父もそれは、わかっていたようで病院のベッドの中で私に向かって手を合わせ拝んでいた。ひとり息子で、数か月前に互いに首を絞め合う喧嘩をした相手が自分の面倒を看てくれるとは思っていなかっただろう!
 
父の葬式にかまけ高血圧症の件は、頭の隅にもなくなっていた。半年後、家人からどうなったか訊かれるまでは。そこで診てもらったのが、今の主治医である。
ずっと正常な血圧なのだが、治ったのか薬のせいなのかわからない。主治医に訊けば3ヵ月朝夕毎日測って持って来いという。メンドクサイ!それにこのままでいれば、年に4回の血液検査がプレゼントされる。基準値外の中性脂肪、コレステロール、尿酸値も正常になった。筋肉を修復するための何とかという数値だけは、少し高いがドラムを敲いているせいだと、主治医も言い心配ないそうだ。
 
「京大の筋肉」の渾名を持つ森谷敏夫名誉教授の言い付け通りの生活は、私には役立っているようだ!この努力も花丸に値すると思う!

高松市菊池寛記念館名誉館長
文藝春秋社友
菊池 夏樹