2022年09月02日

徒然日記 84

With コロナ

久しぶりに声を聞く友人から電話がかかってきた。
「俺は、もう仕事をしていないけど、お前も隠居してるんだろ？」
 
彼の趣味はゴルフ一筋で、仕事は池袋の料理屋に油を卸していた。歴史のある油問屋で、昔は、あの池袋一帯の天ぷら屋や中華料理店が顧客であった。営業もほとんどせず、営業なのかどうだか解らないが神楽坂の小さな料亭に入り浸り、芸者遊びに余念がなかった。
 
そういえば、中仙道や板橋街道のスタート地点である池袋で何軒かガソリンスタンドも経営していたっけ！これは、全て彼の父親が築き上げたモノで、彼は勉強と称してガソリンスタンドの手伝いをしていたことがあった。同級生であるから、まだ若い時である。
彼の父親が亡くなった直後から彼の行動に変化があった。絵に描いたような『遊び人』である。「お前なぁ、ちょっと過ぎやしないか？いくらタンコブが無くなったとは言え、もう少し人目に付かないようにやれよ」私が言ったことがあるが「これがやりたくて俺は、何千何万の車の洗車をしてきたんだぜ」彼は、そう嘯く。まぁ、友人と言ってもあまり入り込まないほうがいい。
 
「奥さんは、元気か？」かまをかけてみた。「そうだな、元気にしているよ」ヤンチャな遊び人だが、奥さんが我慢できる程度なのだろう！「お前、今週末に時間があるか？ちょっと相談事があるんだ」やっと本題に入った。「仕事が終われば、夕方なら何時でも、どこへでも行けるぞ！ただし、金の話はなしだ！老人は、金を持っているなんて政府が言うものだから、何やっても１回の外食で飛ぶような金額だ」私は、釘を刺しておいた。もちろん彼の方が羽振りが良いし、７０年間付き合ってきて、金の話が出たことはない。「決まってるだろ、金の話などお前にするかよ、俺のところにわんさか銀行が来るんだからな。それに、大昔聞いたお前のお爺さんが残したという家訓のひとつに『絶対に、ひとに金を貸すな。金を貸して返してもらった験しは無いからだ。貸すくらいなら、さしあげろ』これは、お前の本が出版されたときにも書いてあったな、俺もお前のお爺さんの家訓を守っているよ。ただ金をあげたことはない！今、ここでは言えないけど会ってから話すよ」
 
日にちや時間、待ち合わせ場所を決めてスマホを切った。まだ、約束の日まで十分に日にちがあった。何日かして、突然彼から携帯に電話がきた。買い換えたばかりの私の新しいスマホの第一号の受信者だった。
「ごめん！」まず、彼の謝罪から始まった。どうも、咳が少し出ると思って体温計で測ったら７度４分だった、そして８度４分まで上がったらしい！彼は、自分で調剤薬局に行ってコロナ抗体キッドを買ったと言う。「それがさ、説明通りにやったら陽性でやんの、で、保健所に訊いて診てくれるクリニックの電話番号を教えてもらった。夜７時半に来いと言われ、正面はシャッターが下りてるから、インターホーンで呼び出してくれとも言われた。それがさ、解熱剤と喉痛くれただけ、たしかに３日で治ったけど、１０日家に居ないと５０万円以下の罰金だとさ、日にち変えてくれるかい？」
「しっかり治せよ、ドキドキしながら会うのはごめんだからな」まだ彼から電話はない。