2021年05月07日
徒然日記 17
あなたみたいになりたい
私のドラムの基礎編を1対1で教えてくださったのは、五木ひろしさんの担当ドラマーに選ばれるくらいの名手でした。なかなかお忙しくて、週に1回30分ほどです。15分は、復習試験、先週教えていただいたフレーズを楽譜見ずに綺麗に5回敲けるか否か!先生のOK!が出れば、次のフレーズを教えていただける。残り15分、聞き覚えのあるフレーズ、私の好きなフレーズ、1回、2回先生が敲いてみせ「はい、やって!」と、言われます。できるわけがありません!先生の敲いた音を忘れないうちに、練習スタジオに飛び込みます。何度も、何度も!しかし、なかなかどうしてか敲けないですが、糸口は掴めます。そして、2度目の自己練で作り上げます。この繰り返しを3年間続けました。
先生は、私がドラムを敲いている時は、正面に仁王立ちして聴いてくれています。最初の時は、なぜかわかりませんでした。が、左右の音のバランスを聴いていたのです。私は、右利きですから、ついつい右の手足の力が強いのです。それに、利き腕、利き足のほうが正確に打てるのです。それを直すのに一苦労です。何をするにも右を優先してきましたから、バランスがよくないのです。これは、私の身体の問題です。右と左を同じにするには、同じ力が出る筋肉が必要になるのです。
その先生は、五木さんからの依頼で、吉幾三さんの担当ドラマーも引き受けることになりました。担当ドラマーとは、指揮者を兼ねているわけです。地方講演で駆け巡るツアーなどよくあるらしいのですが、ビッグバンド全員を連れて巡るわけにはいきません。そこで、信用のあるドラマーだけが、歌手と一緒に行動します。その他の楽器は、地場で集め、担当ドラマーが指揮者になるわけです。
「あなたは、もう基礎編は卒業!」ある日、先生は私に言いました。続けて教えてあげたいけど、ふたりの担当ドラマーをしていたら30分も時間が取れないらしいのです。歌手と地方の会場やホテルのイベントだけでも大変でしょう!「あなたは、次に何をやりたいんですか?」先生に訊かれました。「音楽の基本は、ロックもバラードも演歌だってジャズですから、ジャズを習いたいんです!」と答えました。「よいですね、教えた基礎編のこの部分やこの部分をよく復習すれば、後が楽ですよ」と教えてくれた後、ドラムの先生は「私はね、年を取ったら、あなたみたいになりたいんですよ!」これが、恩師の最後の言葉でした。私は、未だに先生が何を言いたかったのか、わからないでいます。その場で聞けばよかったのでしょうが、なんとなく褒められたような気がして聞けなかったのです。
とはいえ、私はドラムが上手だと思っていません。学生時代、ピアノやヴァイオリン、ギターの先生はいたものの、ドラムの先生はいなかったと思います。音大出の人達は、皆が交響楽団に入るために猛勉強をしていた。今は、よい時代です。名人上手でも、このへなちょこ素人ドラマーに教えてくださるのですから!
そういえば、初心者は、ドラムの辛さですぐに辞めてしまうらしい。ですから、音楽を流しながら教えるのが普通と聞いたことがあります。私の恩師は、技術のレッスンだけで音楽に合わせることをしませんでした。
さて、ジャズをやるには、よい足の筋肉が必要です!