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筋電メディカル徒然日記

2021年07月21日

徒然日記 28
嗚呼、健康保険証!

75歳、後期高齢者になってしまいました。
ちょいと面倒なことがあります。今まで長くお世話になっていた健康保険組合は、退職後も「健康保険特例退職被保険者証」という特別な処置をとってくれていました。私は、今年の誕生日を迎えるまでは、その特例退職被保険者だったのです。これは、私の勤めていた業界の組合で、家人も扶養家族として同じ待遇扱いでした。クレジットカード同様のプラスティック製のカードには、有効期限は書かれていません。私も家人も別々にカードを持ち、歯科医や主治医、耳鼻科、時には救急車で搬送された大病院でも、それを見せれば「さ、さ、どうぞ、ぞうぞ!」愛想をよくして診てくれましたっけ!
 
ところが、75歳になった瞬間、そのよき待遇が奪われてしまいました。私に送られてきたカードは、何か説明書の下に切り取り線で囲まれた「後期高齢者医療被保険者証」で、有効期限が令和4年7月31日とあります。そうそう、家人は、私より半年年下だから自分で申請せよ、とも書かれています。まず、国民保険に入り、半年後に後期高齢者被保険者にさせていただけるようなのです。そして、私と同様に、頼りないぺなぺなの紙のカードに薄いカバーを付けたものになるのでしょう!
老人になると、すぐ間違って紙を破いてしまう。若い時にプラスティック製で、高齢者になるとぺなぺなになるのは、どういうわけなのでしょうか?今回が最後なのですから、どうせなら死ぬまで使えるようにプラスティック製にできないものなのでしょうか?なんとなく、ぺなぺなの紙だと迫力も有難みも無く、頼りがいが無いものです。
それに、家庭内の心の問題が残ります。私が一家を支えて来たんだという証が無くなってしまったのです。もちろん、家人あっての一家ですが、ぎゅうぎゅう詰めの電車、終電ぎりぎりまでの労働、我慢していたのは「偉かったねぇ!」と誉めてもらいたかっただけなのです。プラスティック製のカードがそれを象徴してくれていたのです。後期高齢者の男は、哀れなモノです。
 
友人で、籍を入れない同棲婚の爺様は、とても奥さんを愛していたらしく、亡くなるまで奥さんの介護を驚く程していたと聞きました。喫茶店で「どうぞ、ここ空いてますからお座りなさいよ!」と言われ、かれこれ5、6年の付き合いになります。私より5歳年上ですが、先日ひと月半も入院しました。ひとり住まいですから、我ら老人集団は、気が気ではありません。携帯を家に置いたままの緊急の入院で、誰の電話番号も覚えていない、電話ができなかったらしいのです。
昔は、腕のよい料理人だったらしいのですが、今はひとり暮らし。入院前も危ない足取りでしたが、一時の退院の姿は、見るに堪えられません。歩幅が、20センチ有るか無いかなのです。これじゃ横断歩道も一度では渡り切れないな、と思うほどです。
左腕には、医療用のテープが巻かれています。人工透析の準備らしいのです。「血管が細いんで、針が刺せねぇらしんだ。麻酔したけど、ここ切って血管結んでさぁ、ひどく痛えのさ!」元料理人ですから、タンパク質も摂り、料理のバランスもよいらしいのが幸いです。
 
それにしても、私とたった5歳の差で、物凄い老人です。5年先の私かも知れません。こんな状態をフレイルというらしい。ヨレヨレです。今、森谷教授の開発中の筋電メディカルEMSで、シャキッとした爺になるだろうに!

高松市菊池寛記念館名誉館長
文藝春秋社友
菊池 夏樹